敵キャラの能力設定について
敵キャストの能力設定は大変重要である。しかしながらさほど気遣われているように思えない。 敵キャストの能力設定をうまく使いこなせば、ギミックと違った角度で、敵キャストの行動を操れる。
戦闘に関するCardWirthの内部仕様の概略
まずは、CardWirthの内部仕様をおさらいする。
手札の選択
手札の選択について、CardWirthの内部仕様は以下のようになっている:
- 使う意味のない手札は使用候補とならない。
- 手札の選択傾向は、適性値=(精神的特徴+身体的特徴)を基にした
(適性値+1)/2+2d6 による算出値 をベースに決定されている。
2枚のカードだけを考えれば、
- 適性値に22以上差があると、高いほうが選ばれる確率は100%。
- 適性値に12以上差があると、高いほうが選ばれる確率は91%以上。
- 適性値に8以上差があると、高いほうが選ばれる確率は82%以上。
- 適性値に4以上差があると、高いほうが選ばれる確率は65%以上。
- 回復効果を持つ手札については、対象の残りHPが少ないほど算出値に大きな補正が掛かる:
補正値は、-1~+16 (重傷(20%)時に+2、10%時に+7)、意識不明は+100 - アクションカード「逃走」は、自分の残りHPに応じて算出値に大きな補正が掛かる:
補正値は、+3~+20、(重傷(20%)時に+5、10%時に+10) - アクションカード「カード交換」は補正値-6
- 回復効果を持つ手札の目標は残りHPの低い者を優先する。
行動順
行動順判定は、(敏捷+大胆)+1d6による算出値 をベースに決定される。 敵1体&PC一人の場合を除いて厳密にはズレがあるが、以下のことを念頭に置くとよいだろう:
- 敏捷+大胆に2の差があると、8割の確率で高いほうが先に行動する。
- 敏捷+大胆に4の差があると、9割の確率で高いほうが先に行動する。
- 敏捷+大胆に6の差があると、ほぼ確実に高いほうが先に行動する。
CardWirthのシステムが参照する能力値
キャストの能力値はキャストの挙動、特に、回避・抵抗・アクションカードの使用に大きな影響を与えている。
逆に言えば能力値をいじることで、キャストの挙動が変化する。
各種処理で参照される適性
処理項目 | 参照される適性 |
---|---|
回避 | 敏捷+慎重 |
抵抗 | 精神+勇猛 |
解毒 | 生命+好戦 |
アクションカードの適性値
アクションカード | カード適性 |
---|---|
攻撃 | 筋力+勇猛 |
渾身の一撃 | 筋力+好戦 |
会心の一撃 | 器用+勇猛 |
フェイント | 器用+狡猾 |
防御 | 精神+慎重 |
見切り | 敏捷+慎重 |
混乱 | 知力+正直 |
逃走 | 敏捷+臆病(HPに応じて、+3~+20の補正) |
カード交換 | 知力+慎重(-6の補正) |
敵キャストの能力値についての検討
上に挙げたCardWirthの内部仕様を見てわかる通り、敵キャストの挙動、特に「行動順」「カード選択傾向」はその敵キャストの能力値(身体的特徴と精神的特徴)によって決まる。
これらの要素はギミックで制御するのが極めて困難である。しかし、敵キャストの能力値を上手く設定することで、かなりの割合で制御できる。どのように制御するかを述べていきたい。
まず、敵キャストの能力値を考えるにあたって重要な要素は以下のものである。これらの要素を勘案して、敵キャストの能力値を決めるとよいだろう:
- 先制力=敏捷+大胆
- 回避力=敏捷+慎重+回避力修正
- 抵抗力=精神+勇猛+抵抗力修正
- カード選択傾向
検討:バランス
まずは、敵キャストの先制力・回避力・抵抗力について 標準難易度を想定した目安を示しておく:
- 強力なカードを持っている場合は、先制力4以下が目安となる。
- 回避力+PCとのレベル差×2の値は、PCと対等なら6、格上なら12が目安となる。
- 抵抗力+PCとのレベル差×2の値は、PCと対等なら6、格上なら12が目安となる。
対等というのは、喧嘩などにおけるタイマン戦など、倒さないと話が進まない場面を想定している。また、格上というのは、対象レベル+4のボス1体を倒す場面を想定している(Pabit氏の『十三の魔女の話』など)。抵抗力は目安より数段強くても許されると筆者は考える。
先制力の目安が低めなのは、実際の冒険者作成で敏捷と大胆を両立しにくいことと、「先制攻撃を食らって全滅」は理不尽度が高いことによる。
目安は所詮目安であって、守らなければならないルールではない。というより、この目安は「能力値を普通にしているのにバランスがうまく取れない」「普通の難易度が今一つわからない」というシナリオ作者を対象としている。
検討:カード選択傾向
以下の要素によって敵キャストのカード選択傾向を決定される(アクションカードも含まれることに注意):
- カード適性値(精神的特徴+身体的特徴)
- カード効果(コンテント列・対象・属性)
このうち、カード使用優先度は、ほかの手札の適性値との相対的差に依存して決まる。
例えば、著名な「機甲の兵士」は精神力と知力が低く、好戦的・勇敢・大胆・正直であるため、攻撃系カードを優先し、「防御」「カード交換」「見切り」を嫌う傾向にある。また、敵の回復役(精神力高)が「防御」ばかり引く、魔法使い(知力高)が「カード交換」ばかりで攻撃してくれないという苦労をした方も多いはずだ。
そこで、敵キャストのカード使用優先度を決めて、そこから逆算して能力値を配分すると、狙い通りの動きをしてくれるだろう。
ケーススタディ:動かない敵
アイテム「特定の行動」と「混乱」のみを使用する敵を作ることができる。
アイテム「特定の行動」と、「攻撃」「渾身の一撃」「会心の一撃」「フェイント」「防御」「見切り」「カード交換」が手札に並んでいるとして、「特定の行動」を100%優先したい。それには、適性値が22離れていると、高い適性値のカードが100%選ばれることを利用する。適性値に関する以下の不等式を解けばよい:
ここで、アクションカードと無関係な能力は「生命力」と「社交/臆病性」だけなので、「規定の行動」の適性を「生命+社交」に設定しておく。
設定例
所持カード | 「規定の行動」(アイテム/無属性/使用回数0/生命+社交/「カード消去」効果のみ) |
---|---|
身体的特徴 | 器用0/敏捷0/知力0/筋力0/生命力15/精神0 |
精神的特徴 | 温厚(-4)/社交(+4)/臆病(-4)/大胆(-4)/正直(-4) |
ケーススタディ:タイマン向け魔術師
タイマン戦を想定して、それなりに攻撃力のある敵キャストを作ろう。
「魔法の矢」「眠りの雲」が主力。「穿鋼の突き」も使いこなす、行動順番は遅め、「防御」「見切り」「カード交換」を避ける、というようにしたい。
具体的な優先度を、 「防御」「見切り」「カード交換」 <「攻撃」「渾身の一撃」「会心の一撃」「フェイント」「穿鋼の突き」 <「魔法の矢」「眠りの雲」とする。優先度をもとに、カード適性値に関する以下の不等式をたてる:
7≦「攻撃」「渾身の一撃」「会心の一撃」「フェイント」「穿鋼の突き」≦8
11≦「魔法の矢」「眠りの雲」
敏捷+大胆=4(行動順番)
ここでは、適性値の差が少なくとも3になるように不等式をたてている。 適性値の差が大きいほど優先度のつき方が強くなる。
設定例
所持カード | 「穿鋼の突き」「魔法の矢」「眠りの雲」 |
---|---|
身体的特徴 | 器用4/敏捷4/知力10/筋力4/生命力7/精神5 |
精神的特徴 | 好戦(+3)/内向(-4)/勇猛(+4)/慎重性±0/狡猾(+3) |
例として、上のような能力値を得る(生命力と内向性は適当である)。なお、回避力と「混乱」の優先度を考慮していないことと、「カード交換」の優先度が低いので、このキャストはフェイントに弱い。
優先度に応じてたてた不等式が解けない(不等式を満たす能力値配分が存在しない)ことがある。その場合は条件を減らすか、配布率の低いカードについての条件を妥協することになる。
カードの適性を別のものに振り替えるのも悪くない。筆者が好きな方法は、必殺技の適正を「生命力+社交性」にし、アクションカードに影響を与えず適性値を設定するといったものである。 敵キャストの場合、生命力が参照されるのは中毒(麻痺)解除判定だけだし、社交性はこちら側でカードを用意しない限りは一切参照されないからだ。
ケーススタディ:事故率高めの魔術師
次は、カード使用の優先度をより明確にし、「眠りの雲」で眠らせて次のターンに「炎の玉」を撃ってくるコンボを狙った敵を作ろう。魔術師の常として手札が悪いと弱いが、手札が揃っているとあっさり事故死するというバランスを狙う。
全員が眠ると眠りの雲が使用候補から外れることに留意する。 眠りの雲を最優先に使うようにし、その次に炎の玉を優先するようにすれば、 眠りの雲が決まった次のターンには炎の玉を高い確率で選ぶことになる。
具体的な優先度を、 「攻撃」「渾身の一撃」「会心の一撃」「フェイント」「防御」「見切り」「カード交換」<「炎の玉」<「眠りの雲」とする。優先度をもとに、カード適性値に関する以下の不等式をたてる:
「防御」「見切り」(「カード交換」-6)≦「炎の玉」-4
「炎の玉」+6≦「眠りの雲」
敏捷+大胆=6(行動順番)
ここでは、適性値の差が少なくとも4~6になるように不等式をたてている。先ほどの例と比べてかなり強い優先度付けを行っている。
設定例
所持カード | 「炎の玉」「眠りの雲」 |
---|---|
身体的特徴 | 器用0/敏捷2/知力12/筋力6/生命力4/精神9 |
精神的特徴 | 温厚(-3)/内向(-2)/臆病(-3)/大胆(-4)/狡猾(+3) |
能力値の配分が極端な分、苦手なカードがとことん無能となってしまった。こういう敵を出す時は、技能カードを手札に配布する処理が欲しいところである。
特定のカードを使わせる方法あれこれ
1.100%の確度で使わせる
特定のカードを100%の確度で使わせる方法は以下の3通りである:
- 意識不明者に向けて回復系アイテムカードを使わせる。 適性に無関係。使用対象が意識不明者に固定。
- 適性値がほかのカードより22高いカードを持たせる。前述の「動かない敵」の構成にほぼ限定されるだろう。
- 召喚獣カードを持たせる。 クラシックな方法である。例えば、怪力無双の使用時イベントを、効果コンテント[束縛解除→技能配付(多数)]→効果中断 とすることで素早く復帰させるなど。
2.ある程度制御する
特定のカードの使用をある程度制御するには以下の方法が考えられる:
- カード適性値による制御。能力値をうまく設定することで、敵キャストのカードの使用傾向を、経験則で言うと80%以上の確度でコントロールできる。
システム上、生命力と社交/内向性はほぼ自由枠であるため、この方法は案外使いやすい。
(拙作「MONSTERS!」賞金首戦を参考にされたし) - 苦手な回復系カードを持たせる。回復対象の残りHPが多い時にはそのカードをあまり使わず、回復対象が重傷や意識不明になるとそのカードを積極的に使用するようになる。特に意識不明時は確度100%で使う。
(拙作「20contents7」を参考にされたし) - そのカードを使う意味のある状況をコントロールする。応用例の多い方法。過去記事も参考にされたし。
呪縛解除の効果のみを持つカードは、キャストが呪縛時にのみ使う意味のあるカードになる。神聖属性の効果のみを持つカードは不浄な存在に対してのみ使う意味のあるカードである。このような事実を利用してカードの使用対象をコントロールする。
(Pabitさんの「十三の魔女の話」のオズの魔法使い戦を参考にされたし) - 使わせたいタイミングでカードを配布する。古典的な方法。そのカードの適性値が相対的に高いほど確実。
まとめ
本記事では、CardWirthエンジンの仕様を知ることで、敵キャストの行動を制御する方法を、やや散漫ながら解説した。ここで提示された方法を使いこなすことで、あなたのシナリオがさらに面白くなることをわたしは信じている。
ケーススタディについては実験用のシナリオも用意したので、ぜひ確かめてみてほしい。